タロウ
カオスでした。どうしようもない混沌が、しかしほとばしる情熱が、そこには、たしかにあったのです。
私は「タロウ」なる名前の馬を担当することになりました。
私は彼とともに神社に残り、見つめあい、ときに家族連れや老夫婦の視線にさらされながら、いただいたお弁当を食べ、また見つめあいました。見つめ合うことに飽きると、私はつぶやき、他のメンバーの様子を想像し、一抹の寂しさをおぼえました。やがて一息つくと、また見つめあいました。それだけで私はよかったのです。陽光の中で、時は、ゆっくりと過ぎてゆきました。
↑タロウくんです。とってもやさしい子でしたね。ええ。
こんなこともさせてもらいました。ありがとう、タロウ。
そんなこんなでやってきた私の出番(出番はテキトーでした。やりたきゃどうぞ、という感じでした。ちなみに馬は10頭ほど、曳く人は40人くらいいました。)。
・・・ッ!?今回のお祭りは一味違いました。
駈けるのです。曳きながら。境内約50mを往復で。
しかも町内のおじさんが馬のおしりを叩いて囃し立てているではありませんか。危ないですよ。
ええい、ままよと「ナガラ」号を曳き、駈けてみました。100m14秒くらいの速さで。
すると出るではありませんか、駈歩が。そのときには、恥ずかしさも消え去っておりました。
出逢いがあれば別れもまた避けられぬものです。馬運車に積み込まれたタロウは、一度私に振り向くと、穏やかな微笑を浮かべ、「また、曳いてくれよな。」と語りかけてきました。
私は、「また、次の祭りで逢おうな。」と微笑みがえしました。
巡る季節に、想いを託して。